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ホーム > 映像関係者の声 > プロデューサーインタビュー > 富山という大自然が、都会にはない人間性を表現してくれた/松山ケンイチ主演『川っぺりムコリッタ』のプロデューサー野副亮子さんに、作品のこだわりを聞く

富山という大自然が、都会にはない人間性を表現してくれた/松山ケンイチ主演『川っぺりムコリッタ』のプロデューサー野副亮子さんに、作品のこだわりを聞く

2022.09.21
プロデューサー
野副亮子さん

『かもめ食堂』など数々の話題作を手掛ける荻上直子の新作が、コロナ禍による1年近くの公開延期を挟み、2022年9月16日(金)満を持して公開した。今回は企画が持ち上がった2019年から共に制作に携わっているプロデューサーの野副亮子さんにお話を伺った。

本作が生まれたきっかけを教えてください。
2019年に、監督の荻上直子さんから制作プロダクションを通して「一緒に作りませんか」と映画化のご提案を頂いたことがきっかけです。この2年前、イタリアの映画祭に松山ケンイチさんと出席したのですが、荻上さんと松山さんはこの時に初めて顔を合わせたようで。当時執筆されていた脚本をこの頃から松山さんで、と考えてくださっていたみたいでした。
このような流れになるまでに、荻上さんご自身は紆余曲折があったと聞いています。というのも昨今、オリジナル脚本というのは映画化にこぎ着けるのが大変だと言われています。ですので、まずは小説で認知を広め、映画として扱える作品にまで底上げしたいと考えていらっしゃったようです。
小説と脚本を拝読し、自分自身食べることは大好きですし、なにより世界観がとても面白かったので、ぜひ角川でやりましょうという話になりました。監督の思いを私たちが形にしたいと思いました。
どの程度の期間をかけて撮影から編集までを行いましたか。
2019年に原作が発売されていますが、その直後から私は動き始めていました。
監督とお会いして、2020年の9月に撮影。10月から仕上げを始めて、同年のクリスマスの頃には完成しました。翌年の11月に公開日が決定しました。
しかし、新型コロナウイルスの感染者数が8月頃に大きく増加しました。撮影の段階から悩まされましたが、そんな状況の一方で、この作品は観客の皆様にはじっくりと見てほしいという思いがありました。私自身『かもめ食堂』をリアルタイムで楽しんだ一映画ファンとして、本作は映画鑑賞後に一緒に見た人とご飯を食べながら語り合っていただきたい作品だと思っていました。他の作品ではいつ終わるか先が見えない中で、もう公開延期しないという雰囲気がありましたが、この作品の鑑賞環境として時期尚早だということで、早いうちに延期の決断をしました。
コロナ禍の撮影ということもあり大変だったと思いますが、一番苦労されたことを教えてください。
作品を忘れる日がないくらい、本当に撮影時から公開まで相当悩まされました。毎日寝る前に「これ無事に公開できるのかな」と思っていました。撮影は、ちょうどPCR検査が受けられない最初の時期を少し抜けたかなというタイミングでした。とはいえオール富山ロケでしたので、コロナをロケ地に持ち込むことを絶対に避けなければということで、業界でも珍しかった全員PCR検査を実施しました。もちろん感染予防ガイドラインなどもまだなかったので、各方面から情報収集をしてゼロから作成しました。撮影の準備期間から現地に入っている制作部のスタッフは、コロナ禍のために物件を貸していただけないかもしれない、とかなりひっ迫した状況に追い込まれました。本当に苦労を強いたと思います。今ではすっかり慣れてしまいましたが、9月の暑い気候の中マスクをつけて現場に出るということは当時相当苦しく、熱中症のリスクもありました。
作品の中でも富山県の綺麗な風景が印象的ですが、富山県ロケは当初から決まっていたのですか。
北海道や静岡、北陸といくつか候補はありました。富山県なのか、石川県なのか、それとも福井県なのかまではわからないですけれど、「北陸だ」という監督のイメージをもって脚本を作っていました。その中で一つの決め手になったのが“いかの塩辛”です。富山には「黒作り」という特殊ないかの塩辛があり、生臭さがなくまろやかでおいしいです。それが面白いということで決まりました。最終的にはほぼオール富山ロケ、一部合成用の素材以外はほぼ99%富山県で撮影しました。
また、監督の言葉をお借りすると、孤独な青年が一人で暮らすのに向かう先として、東京にもすぐに行けるけれどこの人里離れた距離感、夏の冷涼とした雰囲気など、表現したいものが撮れるぴったりな場所でした。国内の様々な場所で撮影することで有名な監督の荻上さんが、また良い場所を見つけてくれたなと思いましたね。富山県はそこに行かなければ見られないような、海や山の稜線もはっきり見えるなかなかない景色ですね。
最も印象に残るロケ地を教えてください。
今現在もお住まいになっている方がいらっしゃるので詳細は申し上げられませんが、劇中に登場するアパートのあるエリアです。私は「アパート」というと、1階2階と縦に積まれており外階段がある形を想像していました。しかし、実際に選ばれた場所はそれが横になっているような形でした。庭から箸と茶碗を持って走ってくることができるような距離感を、画作りに生かせる造りでした。美術さんが製作してくれた作り物の石の上を走って飛び越えてくるという、制作と美術の連携プレイで面白い映像が撮れたと思います。ロケ地探しの際は、富山ロケーションオフィスの方々にも多大なご協力をいただきました。
裏話を教えてください。
畑は少し前から美術チームが入って、ご協力いただける地元の方と一緒に畑を作るところから始めていました。毎日できてしまうきゅうりを収穫するなど、美術チームは本当に農業をやっているような感覚でした。他にも、松山さんはムロさんに対して畑づくりのアドバイスをされていました。松山さんは、現在田舎に引っ越してトマト作りをされているそうで、知識を持っていらしたので所作指導に近いことをされていましたね。こういう時間には農家の人は普通水やりをしないですよ、とか。普段一緒に作られている地元の農業仲間に電話して「こんな時ってどうしてる?」と聞いてくれたり、松山さんが育てたトマトで作ったトマトジュース差し入れて下さったりしました。これが本当においしくて。
他にも裏話はありますか。
クランクアップの際に、松山さんは撮影に入るまでの期間に田舎への移住をされたことが、役作りに対する考え方への大きな変化だったと仰っていました。役を事前に作りこまず、ただそこに“山田”という人間でいてみようという姿勢が、面白かったですし、本作にはとてもマッチしていたと思いました。最近だと「これは言わないでおこう」「これはだめだ」と距離が近くても干渉しないことが、人を「尊重する」ことだと言うじゃないですか。しかしそれは時と場合によっては無関心で寂しいこともある。本来の「尊重」という言葉通りにとれない場合があります。ボロアパート「ハイツムコリッタ」の住民は、人が本来持っている思いやりを思い起させてくれるキャラクターたちで、付かず離れず何かあれば助け合うという、都会にはなかなかないものを表現してくれています。これも富山という大自然の環境がそうさせてくれたのではないでしょうか。
他にも、川っぺりにあるお寺を控え室としてお借りしていたのですが、そこにすごく素敵なお庭があって。満島さんとスタイリストがお茶を飲みながら現場の時間が来るのを待っているような。出番と出番の間が空いてしまった時でも、満島さんは快く「ここが気持ち良いので待てます」と言ってくださったり、コロナには苦しめられましたが、環境には大分助けられたなと思いました。
食事が大変おいしそうに映っていましたが、こだわりポイントありますか。
荻上さん作品の1番の魅力は、我々の生活に近しい衣食住が自然と描かれている点です。当たり前のようにご飯を美味しそうに見せるし、食べるところはしっかり食べていただく方針で撮っており、監督としては「当たり前」という感じです。フードスタイリストの飯島奈美さんは荻上作品には欠かせない方です。それが今回はフィンランドでも与論島でもない、富山県でいかの塩辛という、この時代だからこその「足るを知る」プリミティブな日本の暮らしに着目しました。
それだけでなく、今回の作品はかなりぐっと踏み込んだドラマ性があると思っています。食べることは生きることというのがあって、いかも元々生き物ですが、グロテスクではなくおいしそうに映っていたり、ちょっと空を飛んでいたりして、生と死のメタファーのようなものを表現している。そのユーモアのセンスを楽しんでもらえればと思います。
ロケ地選びにおけるポイントを教えてください。
我々の使命は、監督がやりたいことを実現することです。映画を作る身としては、地域の方が推したい観光名所ではないことが多いです。今作でも、住んでいる人にとっては何でもない川をいくつか組み合わせて1つの川に見せるなど、外の人があまり踏み入らない場所が面白かったりするからです。しかし、そうした場所の打ち出し方を各地のフィルムコミッションやロケーションサービスの方々と相談しながら作ることができれば、その地域の中にある魅力を再発見できるのではないかと思っています。新しい発見のために温かい目でご協力いただければ嬉しいなと思います。
最後に、映像制作者、映像業界、プロデューサーを目指す若い方世代の方々にメッセージをいただけますか。
劇中で、緒形直人さん演じる塩辛工場の社長が「10年先のことは10年経ってみないとわからない」と言います。今しかできないことってあると思います。若い方、始めたばかりの方、5年のキャリアがある方、10年のキャリアがある方、現場から入った方、私みたいにサラリーマンから入った方など、立場は変わっていくものですが、立場が変わると考え方も変わります。その時の自分なりに考えて、やってみた経験というのは、絶対に無駄にはなりません。角度からの目を養うことで、相手のことをよりよく理解できると思うので、それは大きな強みになります。様々な人と対話して作り上げるのが映画でもあるので、ぜひ楽しんでほしいです。

――ありがとうございました!
作品情報
映画『川っぺりムコリッタ』
築50年の「ハイツムコリッタ」で暮らし始めた孤独な山田。
底抜けに明るい住人たちと出会い、ささやかなシアワセに気づき始める・・・。

山田(松山ケンイチ)は、北陸の小さな街で、小さな塩辛工場で働き口を見つけ、社長から紹介された「ハイツムコリッタ」という古い安アパートで暮らし始める。無一文に近い状態でやってきた山田のささやかな楽しみは、風呂上がりの良く冷えた牛乳と、炊き立ての白いごはん。ある日、隣の部屋の住人・島田(ムロツヨシ)が風呂を貸してほしいと上がり込んできた日から、山田の静かな日々は一変する。できるだけ人と関わらず、ひっそりと生きたいと思っていた山田だったが、夫を亡くした大家の南(満島ひかり)、息子と二人暮らしで墓石を販売する溝口(吉岡秀隆)といった、ハイツムコリッタの住人たちと関わりを持ってしまい…。図々しいけど、温かいアパートの住人たちに囲まれて、山田の心は少しずつほぐされていく―。
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【作品情報】
2022年9月16日(金)全国公開中
出演: 松山ケンイチ、ムロツヨシ、満島ひかり、吉岡秀隆、江口のりこ、柄本佑、田中美佐子、緒形直人
監督・脚本:荻上直子
原作:荻上直子「川っぺりムコリッタ」(講談社文庫)
音楽:パスカルズ
配給:KADOKAWA
©2021「川っぺりムコリッタ」製作委員会

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プロデューサー
野副亮子さん
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