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ボクシングが好きだったけど結果を出せなかった人に「俺はこう思っていましたよ」と作品を通して伝えたい。/映画『BLUE/ブルー』の吉田恵輔監督に「逆算して物語を作る」こだわりを聞く

2021.04.01
監督
吉田恵輔(※『吉』は土に口)さん
映画『ヒメノア~ル』(16)、『犬猿』(18)、『愛しのアイリーン』(18)を手がけた吉田恵輔監督に「作品が生まれた経緯」や「こだわった点や、苦労した点」、さらに”ロケ地”へのこだわりに関して語っていただきました。
『BLUE/ブルー』が生まれた経緯を教えてください。

 僕自身が中学校の時から、部活をやらずにボクシングを習っていました。それから引っ越す度に変わりましたが、今もまだやっていて、五ヶ所ぐらい渡り歩いてきました。

その中でいろいろな人と出会いと別れがありました。入ってくる者もいれば去っていく者もいて、かつ負ける者もいました。その中に、名も無きボクサーたちがたくさんいるのです。しかし、その人たちの努力や流した汗へ花束を渡すような作品が一個あっても良いのではないかと思い、筆をとりました。チャンピオンになった人の映画はあるけど、なれなかった人たちへの映画を一つ作りたいと思ったのが始まりです。

実際に経験されて、実話も入っているのかなと思っているのですがどうでしょうか?

 自分自身が出会った人たちの集合体といった感じです。自分たちが出会って、好きだった人とか。ボクシングが好きだったけど結果を出せなかった人に「俺はこう思っていましたよ」と言ってあげたいという感覚です。実際にあった話もたくさんあります。

ネタ自体は昔から、ボクシングをやっているので持っていたのですが、「やろう」と思っていたのはもっと昔です。役者の稽古する時間もあるし、ボクシングが題材の作品は[選出]しづらいのです。ボクシング映画はヒットで言うアタリ・ハズレが難しく、お金も時間もかかります。実際、時間がかかりました。

監督自ら稽古をされていたということで、どのように稽古をされていたのですか?

 そうですね、僕自身が殺陣を考え稽古を行いました。スパーリングから試合の動きから自分が行い、演者へレクチャーし、その通りに撮る。二ヶ月ぐらいかけて撮りました。プロの子が付き合ってくれたので、その子を相手役に「これをやれ」と作っていきました。

撮影の際に特にこだわったシーンはありますか?

 やはり殺陣ですね。ボクシングの殺陣自体に意味がないといけないので、ただ単に動いたというのではダメです。このパンチはあくまでガードさせる上で打っているパンチで、次のパンチが本命で、でもそれはかわされ…といった動きを自分がボクシングをやっていると分かります。それが普通のボクシング映画を見ると、安全なパンチを出しているだけになっているのです。僕は「かわせなかったら本当に顔面に直撃するけど、嫌だったらちゃんと避けて」という感じで演出しました。

普通の監督がやったらパンチの瞬間「あっ!」となってしまいますが、僕たちが監督していたら当たった感覚が普通の人と違うので。「そんなパンチを一撃もらっても、そんなの倒せないよ」というパンチは当たったうちに入らないのです。

今作品『BLUE/ブルー』のロケ地で「苦労したこと」や「こだわり」はありますか?

 後楽園ホールは絶対に譲れなかったですね。もし撮れないのならこの企画は降りる、と言ったぐらいです。後楽園ホールがとれないのなら、全編名古屋で撮って良いですか、と聞きました。実際、東日本のタイトルマッチは後楽園ホール以外で行われないのです。だから、違うところで撮るというのは、有り得ません。ここで嘘をついたら、この30年間ボクシングをやってきたことが恥ずかしくて撮れない。だったら、設定が名古屋だったら、地方の真ん中にある大きなリングのある大阪府中第二体育館もあるので、と。

ボクシングジムでいうと、撮影をした『コサカジム』の一番の利点は「鏡がない」ことです。ジムはほぼ鏡張りなんです。このジムに鏡がないのはコサカ会長の方針で、鏡は一つの場所しかないのです。鏡があると、鏡を見てやるクセがついてしまうからということで、場所を決めこんでいます。撮影をする立場としても凄く楽です。もし撮影時に鏡張りだと、カメラさんからマイクさんから、照明さんから、全部映ってしまう。小さい窓しか無いので、暗幕を引くのも自然にできますし、こんな良い条件のところは他にありません。

ほかにロケ地に絡めて、苦労したことはありますか?

 ここは東京なのか、東京風のどこかなのか、等画を想像しながら考えていたのでロケ地探しが大変でした。今は東京ってあまり撮影ができないのです。熊谷の大きなジムで撮っているので、荒川沿いとかになるのか?という。そういう風につながりそうなところを考えるのが大変でした。

画が合うようなところを常に考えていらっしゃったんですね。

 ジムへの逆算です。谷中のような下町の設定かな、と。プレハブの平屋はなかなか東京ではありえないですね。そういう設定がないと探す制作部も探せないので考えました。

走っているシーンは僕の家の近くの荒川沿いです。自分で歩いてロケハンをしました。そして、朝6時ぐらいに撮ろうと決めました。ロケ隊は新宿5時集合なのですが、僕は歩いて5分なので現地集合で(笑)。でも撮影当日、玄関を開けたら前が見えないぐらい霧が立ち籠めていて真っ白で驚きました。いつも散歩しているおばあさんも「私も生まれて初めて!」というぐらいで(笑)。でも「これはこれで面白いから」と、東出さんが走っているシーンなどはつながりが関係ないから撮ろう、ということになりました。ラストシーンもその霧の日に撮影しています。一時間したら、本当に霧が晴れて雲ひとつ無い青空でした。霧のシーンはおまけで凄く良い絵が撮れました。

次に監督がやる作品で、ここを撮りたいというのはありますか。

 『空白』という作品を愛知県蒲郡市で撮影したのですがそこがとても良かったので、また蒲郡市を舞台に書きたいと思っています。

自治体の取り組みも良かったのですが。「尾道三部作」というのがありますよね。僕は「蒲郡三部作」を作りたいと思っています。行きつけのお店もいくつかできていますし。毎日飲んでいましたから(笑)。漁港もあるし、良いですね。

最後に映像業界と目指す方々へ一言をお願いします。

 とりあえず、自分が好きだというものをちゃんと理解したほうが良いと思います。それが自信を持てることだと思うので。「映画が好き」と言っている時にみんなが「いや、カンヌのあれは面白かったね」と言っている時に「いや、俺は別のあの映画が好き」と言えるかどうか。自分が好きなものに自信がないと。監督というのは、基本的に自分が「好き」というものを通す仕事なのです。お芝居はこれが好き、音楽はこれが好き、衣装はこれが好き。それは論破する必要はないのです。しかし、自分が分かっていないと迷ってしまう。「これもいいな」「あれもいいな」という風になると「どっちなんだよ!」と信用を失いますよね。好きなものが分かっていると「これが好き、これをやりたい」と言えるので、好きなものを明確にできると良いですね。監督の好きには誰も反対できないので(笑)。

映画『ヒメノア~ル』(16)、『犬猿』(18)、『愛しのアイリーン』(18)を手がけた吉田恵輔監督に「作品が生まれた経緯」や「こだわった点や、苦労した点」、さらに”ロケ地”へのこだわりに関して語っていただきました。
『BLUE/ブルー』が生まれた経緯を教えてください。

 僕自身が中学校の時から、部活をやらずにボクシングを習っていました。それから引っ越す度に変わりましたが、今もまだやっていて、五ヶ所ぐらい渡り歩いてきました。

その中でいろいろな人と出会いと別れがありました。入ってくる者もいれば去っていく者もいて、かつ負ける者もいました。その中に、名も無きボクサーたちがたくさんいるのです。しかし、その人たちの努力や流した汗へ花束を渡すような作品が一個あっても良いのではないかと思い、筆をとりました。チャンピオンになった人の映画はあるけど、なれなかった人たちへの映画を一つ作りたいと思ったのが始まりです。

実際に経験されて、実話も入っているのかなと思っているのですがどうでしょうか?

 自分自身が出会った人たちの集合体といった感じです。自分たちが出会って、好きだった人とか。ボクシングが好きだったけど結果を出せなかった人に「俺はこう思っていましたよ」と言ってあげたいという感覚です。実際にあった話もたくさんあります。

ネタ自体は昔から、ボクシングをやっているので持っていたのですが、「やろう」と思っていたのはもっと昔です。役者の稽古する時間もあるし、ボクシングが題材の作品は[選出]しづらいのです。ボクシング映画はヒットで言うアタリ・ハズレが難しく、お金も時間もかかります。実際、時間がかかりました。

監督自ら稽古をされていたということで、どのように稽古をされていたのですか?

 そうですね、僕自身が殺陣を考え稽古を行いました。スパーリングから試合の動きから自分が行い、演者へレクチャーし、その通りに撮る。二ヶ月ぐらいかけて撮りました。プロの子が付き合ってくれたので、その子を相手役に「これをやれ」と作っていきました。

撮影の際に特にこだわったシーンはありますか?

 やはり殺陣ですね。ボクシングの殺陣自体に意味がないといけないので、ただ単に動いたというのではダメです。このパンチはあくまでガードさせる上で打っているパンチで、次のパンチが本命で、でもそれはかわされ…といった動きを自分がボクシングをやっていると分かります。それが普通のボクシング映画を見ると、安全なパンチを出しているだけになっているのです。僕は「かわせなかったら本当に顔面に直撃するけど、嫌だったらちゃんと避けて」という感じで演出しました。

普通の監督がやったらパンチの瞬間「あっ!」となってしまいますが、僕たちが監督していたら当たった感覚が普通の人と違うので。「そんなパンチを一撃もらっても、そんなの倒せないよ」というパンチは当たったうちに入らないのです。

今作品『BLUE/ブルー』のロケ地で「苦労したこと」や「こだわり」はありますか?

 後楽園ホールは絶対に譲れなかったですね。もし撮れないのならこの企画は降りる、と言ったぐらいです。後楽園ホールがとれないのなら、全編名古屋で撮って良いですか、と聞きました。実際、東日本のタイトルマッチは後楽園ホール以外で行われないのです。だから、違うところで撮るというのは、有り得ません。ここで嘘をついたら、この30年間ボクシングをやってきたことが恥ずかしくて撮れない。だったら、設定が名古屋だったら、地方の真ん中にある大きなリングのある大阪府中第二体育館もあるので、と。

ボクシングジムでいうと、撮影をした『コサカジム』の一番の利点は「鏡がない」ことです。ジムはほぼ鏡張りなんです。このジムに鏡がないのはコサカ会長の方針で、鏡は一つの場所しかないのです。鏡があると、鏡を見てやるクセがついてしまうからということで、場所を決めこんでいます。撮影をする立場としても凄く楽です。もし撮影時に鏡張りだと、カメラさんからマイクさんから、照明さんから、全部映ってしまう。小さい窓しか無いので、暗幕を引くのも自然にできますし、こんな良い条件のところは他にありません。

ほかにロケ地に絡めて、苦労したことはありますか?

 ここは東京なのか、東京風のどこかなのか、等画を想像しながら考えていたのでロケ地探しが大変でした。今は東京ってあまり撮影ができないのです。熊谷の大きなジムで撮っているので、荒川沿いとかになるのか?という。そういう風につながりそうなところを考えるのが大変でした。

画が合うようなところを常に考えていらっしゃったんですね。

 ジムへの逆算です。谷中のような下町の設定かな、と。プレハブの平屋はなかなか東京ではありえないですね。そういう設定がないと探す制作部も探せないので考えました。

走っているシーンは僕の家の近くの荒川沿いです。自分で歩いてロケハンをしました。そして、朝6時ぐらいに撮ろうと決めました。ロケ隊は新宿5時集合なのですが、僕は歩いて5分なので現地集合で(笑)。でも撮影当日、玄関を開けたら前が見えないぐらい霧が立ち籠めていて真っ白で驚きました。いつも散歩しているおばあさんも「私も生まれて初めて!」というぐらいで(笑)。でも「これはこれで面白いから」と、東出さんが走っているシーンなどはつながりが関係ないから撮ろう、ということになりました。ラストシーンもその霧の日に撮影しています。一時間したら、本当に霧が晴れて雲ひとつ無い青空でした。霧のシーンはおまけで凄く良い絵が撮れました。

次に監督がやる作品で、ここを撮りたいというのはありますか。

 『空白』という作品を愛知県蒲郡市で撮影したのですがそこがとても良かったので、また蒲郡市を舞台に書きたいと思っています。

自治体の取り組みも良かったのですが。「尾道三部作」というのがありますよね。僕は「蒲郡三部作」を作りたいと思っています。行きつけのお店もいくつかできていますし。毎日飲んでいましたから(笑)。漁港もあるし、良いですね。

最後に映像業界と目指す方々へ一言をお願いします。

 とりあえず、自分が好きだというものをちゃんと理解したほうが良いと思います。それが自信を持てることだと思うので。「映画が好き」と言っている時にみんなが「いや、カンヌのあれは面白かったね」と言っている時に「いや、俺は別のあの映画が好き」と言えるかどうか。自分が好きなものに自信がないと。監督というのは、基本的に自分が「好き」というものを通す仕事なのです。お芝居はこれが好き、音楽はこれが好き、衣装はこれが好き。それは論破する必要はないのです。しかし、自分が分かっていないと迷ってしまう。「これもいいな」「あれもいいな」という風になると「どっちなんだよ!」と信用を失いますよね。好きなものが分かっていると「これが好き、これをやりたい」と言えるので、好きなものを明確にできると良いですね。監督の好きには誰も反対できないので(笑)。

作品情報
映画『BLUE/ブルー』 
  • INFORMATION

 誰よりもボクシングを愛する瓜田は、どれだけ努力しても負け続き。一方、ライバルで後輩の小川は抜群の才能とセンスで日本チャンピオン目前、瓜田の幼馴染の千佳とも結婚を控えていた。千佳は瓜田にとって初恋の人であり、この世界へ導いてくれた人。強さも、恋も、瓜田が欲しい物は全部小川が手に入れた。それでも瓜田はひたむきに努力し夢へ挑戦し続ける。しかし、ある出来事をきっかけに、瓜田は抱え続けてきた想いを二人の前で吐き出し、彼らの関係が変わり始めるー。

 

監督・脚本・殺陣指導:吉田恵輔(※『吉』は土に口)

音楽:かみむら周平

出演: 松山ケンイチ 木村文乃 柄本時生 / 東出昌大

2021年4月9日(金)より、新宿バルト9ほか全国ロードショー

製作:『BLUE/ブルー』製作委員会

(東映ビデオ、日活、ファントム・フィルム、AMGエンタテインメント、レイラインピクチャーズ)

 

【INTERVIEW】

1975年生まれ。埼玉県出身。

吉田恵輔(よしだ・けいすけ)監督

主な作品

『ヒメノア~ル』(16)

『犬猿』(18)

『愛しのアイリーン』(18) 他

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