自分の作った映画がシリーズ化することはなかったので、続編を作らせていただくことになったことは、プレッシャーも感じながらも面白いと思いました。せっかく声をかけていただいたのだから断ってはいけないし、やりたいと思いました。先輩の作品ということで意識はしましたが「過去二作と違うものを作ればいい」という思いがありました。前作のまねをするのではなく、良いところは良いところで取り入れていけばいいかな、と思いながら制作しました。
むしろ現代だと思って制作していたので、80年代を意識してはいないですね。主人公の年齢設定を上げたり、設定を変えたりしたのも、時代を「今」に置き換えるというか、今ならこうなんじゃないか、と思ってのことです。原作の主人公は20代前半なので、今その年齢設定で描くと凄く青春映画の枠になると感じました。若いから、まだまだ未来はあるという気がして。今の時代にこの作品を描くなら、40歳ぐらいの、人生折返しのところの感じの方がいいかな、と思いました。
僕だけではなく、スタッフ総出でシナリオに意見を言っていました。今回面白かったのは「皆で作った」という感じが凄くする作品になった、ということです。チーフの助監督さんが凄く粘ってくれたので、良い意味でみんなを追いこんでくれました。
羽が降ってくるシーンは、メイクさんのアイデアです。あのシーンでは「羽が降る」というのと「鳥が騒ぐ」という2案が出たのですが、この2案は無記名投票で決まりました。その後、喫煙室で煙草を吸っていたらメイクさんがきて「監督、どうしましょう。私の案が決まっちゃったのですが」って(笑)。色々な発想が聞ける豊かな現場で面白かったです。
あまり美化しないでおこう、という気持ちはありました。1人1人が「私はこう見せたい」といった、キャラクターに変に没頭することもなかったので、多分キャストのみんなも分かってくれていたのではないかと思います。みんな“欲”があんまりなかったのかな、と。皆で意見を言い合いながら撮影して、その場でベストな状態が生まれていき、良い形でみんなが実力を発揮してできた映画だな、という気が凄くしたのです。僕の想像を超えた映画になりました。
提案ではないけれど、森が喧嘩して皆がラーメン食った後に町を歩いた時、代島が「ナンパでもします?」と話しだして、勝間田が「競輪かな」とその場で話しているのは、シナリオには無く、僕らのアドリブです。函館のロケをしている時は、皆夜な夜なロビーに集まって飲んでいました。鈴木常吉さんは役者の中で1番年上なのですが、1番新人で。(松田)翔太君が中心になって、常吉さんをいじっていたのですが、その関係性のままがここはいいな、と思ったのでそのままアドリブでやってもらいました。あの関係性があったからあのシーンは撮れたのですね。
最初にシナリオハンティングという形で、去年の3月か4月に脚本家さんとプロデューサーと僕で行きました。ぼくよりもカメラの近藤君は函館が3本目なので、彼は体で分かっていたのではないかと思います。
今回は実際にある場所をあて書きされていたので、そこを使おうと思っていました。中でも難しかったのは白岩の家ですね。1人きりになりたい男なので、海の音しか聞こえないような所にアパートがないかな、と探しました。あと聡の離れですね。函館には「離れ」という発想がありません。寒いので皆、基本的に同じ敷地内に住むので離れ自体がない。撮影をした場所だけ、唯一見つかりました。あまりに物件がないので「離れの設定やめません?」という話もあったのですが、押し通しました。確かに聡の両親は出てこないので離れを作る必要性はないのですが聡の距離感は離れだよな、と思って。1人暮らしで自立していたら、また聡とは違う人物になると思いました。
あれは本物の学校ですが、(原作者の)佐藤泰志さんが行っていたところではないです。
佐藤さんの学校は、映画のものとは少し違う雰囲気で、もう少し学校らしい感じでした。撮影で使った学校の方が、ちょっと刑務所っぽいというか(笑)。面白いなと感じました。実際は制服ではなく私服なので、映画用に制服を作成しました。制服というか、ユニフォームにして、少年院っぽくみえるように。最後のシーンのグラウンドは小学校の敷地をお借りして撮影しています。中庭みたいなところで、体育館の見え方が凄く良かったので。汚れ方も、北海道ならではの独特な歴史と古さを感じられて良かったです。函館の学校を見て周っていて、あんまり学校に柵がないことに気づいた時は、凄く新鮮でした。
映画でも原作と目指すところは同じようにしようと思っていました。映画では主人公は40歳ぐらいの、それなりのキャリアがあった男性が函館に戻ってくるという話になっているので、原作の方が青春の要素が強いかもしれません。ただ、設定を変えたり、オダギリさんたちが出演してくださったりしたことも含めて、映画はもう少し厚みが出ているのかな、という気がします。小説は読み終わったときは「気分いいな」と思うのですが、「この男はいったいどこで気持ちが良くなったのか」がわからないですよね。聡の存在も薄いし。でもあれは小説ならではの世界なのだろうな、と思います。
映画ではそれなりの葛藤を描いたり、白岩の前の奥さんを出したり、絵と動きで見せられるものは膨らんだ方向になったと思います。
めちゃくちゃ良かったと思います。提示していただいた場所にもNGはなかったですし、ロケ―ションに関してストレスはなかったですね。
勝ち組負け組の価値基準というのがありますよね。映画の中で勝間田も言っていますが、学校の外にはいろんな人のいろんなドラマがある。何もない人なんていない。ただ本当に煮詰まっている人たちもいる。凄く普通に生きていることの豊かさを、映画で見ていただけたらいいですね。
自分の作った映画がシリーズ化することはなかったので、続編を作らせていただくことになったことは、プレッシャーも感じながらも面白いと思いました。せっかく声をかけていただいたのだから断ってはいけないし、やりたいと思いました。先輩の作品ということで意識はしましたが「過去二作と違うものを作ればいい」という思いがありました。前作のまねをするのではなく、良いところは良いところで取り入れていけばいいかな、と思いながら制作しました。
むしろ現代だと思って制作していたので、80年代を意識してはいないですね。主人公の年齢設定を上げたり、設定を変えたりしたのも、時代を「今」に置き換えるというか、今ならこうなんじゃないか、と思ってのことです。原作の主人公は20代前半なので、今その年齢設定で描くと凄く青春映画の枠になると感じました。若いから、まだまだ未来はあるという気がして。今の時代にこの作品を描くなら、40歳ぐらいの、人生折返しのところの感じの方がいいかな、と思いました。
僕だけではなく、スタッフ総出でシナリオに意見を言っていました。今回面白かったのは「皆で作った」という感じが凄くする作品になった、ということです。チーフの助監督さんが凄く粘ってくれたので、良い意味でみんなを追いこんでくれました。
羽が降ってくるシーンは、メイクさんのアイデアです。あのシーンでは「羽が降る」というのと「鳥が騒ぐ」という2案が出たのですが、この2案は無記名投票で決まりました。その後、喫煙室で煙草を吸っていたらメイクさんがきて「監督、どうしましょう。私の案が決まっちゃったのですが」って(笑)。色々な発想が聞ける豊かな現場で面白かったです。
あまり美化しないでおこう、という気持ちはありました。1人1人が「私はこう見せたい」といった、キャラクターに変に没頭することもなかったので、多分キャストのみんなも分かってくれていたのではないかと思います。みんな“欲”があんまりなかったのかな、と。皆で意見を言い合いながら撮影して、その場でベストな状態が生まれていき、良い形でみんなが実力を発揮してできた映画だな、という気が凄くしたのです。僕の想像を超えた映画になりました。
提案ではないけれど、森が喧嘩して皆がラーメン食った後に町を歩いた時、代島が「ナンパでもします?」と話しだして、勝間田が「競輪かな」とその場で話しているのは、シナリオには無く、僕らのアドリブです。函館のロケをしている時は、皆夜な夜なロビーに集まって飲んでいました。鈴木常吉さんは役者の中で1番年上なのですが、1番新人で。(松田)翔太君が中心になって、常吉さんをいじっていたのですが、その関係性のままがここはいいな、と思ったのでそのままアドリブでやってもらいました。あの関係性があったからあのシーンは撮れたのですね。
最初にシナリオハンティングという形で、去年の3月か4月に脚本家さんとプロデューサーと僕で行きました。ぼくよりもカメラの近藤君は函館が3本目なので、彼は体で分かっていたのではないかと思います。
今回は実際にある場所をあて書きされていたので、そこを使おうと思っていました。中でも難しかったのは白岩の家ですね。1人きりになりたい男なので、海の音しか聞こえないような所にアパートがないかな、と探しました。あと聡の離れですね。函館には「離れ」という発想がありません。寒いので皆、基本的に同じ敷地内に住むので離れ自体がない。撮影をした場所だけ、唯一見つかりました。あまりに物件がないので「離れの設定やめません?」という話もあったのですが、押し通しました。確かに聡の両親は出てこないので離れを作る必要性はないのですが聡の距離感は離れだよな、と思って。1人暮らしで自立していたら、また聡とは違う人物になると思いました。
あれは本物の学校ですが、(原作者の)佐藤泰志さんが行っていたところではないです。
佐藤さんの学校は、映画のものとは少し違う雰囲気で、もう少し学校らしい感じでした。撮影で使った学校の方が、ちょっと刑務所っぽいというか(笑)。面白いなと感じました。実際は制服ではなく私服なので、映画用に制服を作成しました。制服というか、ユニフォームにして、少年院っぽくみえるように。最後のシーンのグラウンドは小学校の敷地をお借りして撮影しています。中庭みたいなところで、体育館の見え方が凄く良かったので。汚れ方も、北海道ならではの独特な歴史と古さを感じられて良かったです。函館の学校を見て周っていて、あんまり学校に柵がないことに気づいた時は、凄く新鮮でした。
映画でも原作と目指すところは同じようにしようと思っていました。映画では主人公は40歳ぐらいの、それなりのキャリアがあった男性が函館に戻ってくるという話になっているので、原作の方が青春の要素が強いかもしれません。ただ、設定を変えたり、オダギリさんたちが出演してくださったりしたことも含めて、映画はもう少し厚みが出ているのかな、という気がします。小説は読み終わったときは「気分いいな」と思うのですが、「この男はいったいどこで気持ちが良くなったのか」がわからないですよね。聡の存在も薄いし。でもあれは小説ならではの世界なのだろうな、と思います。
映画ではそれなりの葛藤を描いたり、白岩の前の奥さんを出したり、絵と動きで見せられるものは膨らんだ方向になったと思います。
めちゃくちゃ良かったと思います。提示していただいた場所にもNGはなかったですし、ロケ―ションに関してストレスはなかったですね。
勝ち組負け組の価値基準というのがありますよね。映画の中で勝間田も言っていますが、学校の外にはいろんな人のいろんなドラマがある。何もない人なんていない。ただ本当に煮詰まっている人たちもいる。凄く普通に生きていることの豊かさを、映画で見ていただけたらいいですね。
(STORY)
妻子と別れ、東京から故郷・函館に戻った白岩(オダギリジョー)。職業訓練校に通い、失業保険をもらいながら、孤独で無気力な生活をずるずると続けていた。そんなある日、同じ訓練校に通う代島(松田翔太)に誘われキャバクラを訪れた白岩は、鳥の求愛ダンスを真似る風変わりなホステス・聡(蒼井優)と出会う。やがて、どこか危うさを抱える彼女に強く惹かれていき…。
監督:山下敦弘
原作:佐藤泰志「オーバー・フェンス」
(小学館「黄金の服」所収)
出演:オダギリジョー、蒼井優、
松田翔太、北村有起哉、満島真之介、
松澤匠、鈴木常吉、優香 ほか
9月17日(土)より
テアトル新宿ほか全国公開
©2016「オーバー・フェンス」製作委員会
山下敦弘(やました・のぶひろ)
1976年、愛知県生まれ。大学の卒業制作『どんてん生活』(99)で注目を浴び、『天然コケッコー』(07)で報知映画賞・最優秀監督賞を最年少で受賞。他に『苦役列車』(12)、『もらとりあむタマ子』(13)、『味園ユニバース』(15)など。秋に『ぼくのおじさん』が公開予定。