映画『此処だけの話』は塩野監督が生まれ育った八王子市八幡町が舞台の作品ですが、どういった経緯で撮影されたのでしょうか?
僕が生まれてから大学卒業まで住んでいた、八王子市八幡町にある八幡町商店街の「くらま会」の方からの依頼で撮影が決まりました。
八王子まつりでくらま会が山車を出しているのですが、僕が4、5歳の頃から参加していて、そこで一緒になった方が、僕が映画監督をしていることを知っていたんです。例年は、町の歴史やお店を紹介するパンフレットを作成されていたのですが、今年は(映画監督をしている)僕がいるじゃん、ということで。
面白いことをどんどんやろう、という土壌と、監督を志す僕がそこに住んでいたことが繋がって、今回の映画製作に至りました。
ご自身の故郷で映画を撮ってみて、いかがでしたか?こだわったことや、改めて発見した町の魅力はありましたか?
無理やりドラマチックな展開を作るよりも、そのままの日常を切り取るようにして、僕が見た景色を撮りたいと思いました。あまり特別な場所という風には撮らなくていいと思い、商店街の方々に相談したところ、同じような意向でした。普段目にするような景色が映画になっています。
東京といっても、都会でも田舎でもない風景の曖昧な感じが、主人公・なつこの白黒つけたがらない曖昧なニュアンスとマッチしました。はっきりとした色ではなくて、グラデーションの中の、にじみ出てくる感じを作品に出したいなと思って撮影していました。
他にも、お互いに一歩踏み込むような人間関係ではなくて、お互いの輪郭だけ触れ合うようないい距離の取り方が、この八幡町にはあると思い作品にも反映させています。役者の皆さんにも、会話の場面では距離感を意識してもらいました。お互いのテリトリーに入り、干渉しあうのではなく、輪郭が分かった上で触れ合うような関係性で成り立っているこの町の魅力を、作品を通して感じてもらえればと思います。