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ホーム > 映像関係者の声 > 監督インタビュー > 今の世の中にとって、必要な仕事であり、必要なことを気づかせてくれる作品 / 『花戦さ』『影踏み』など多彩な作品を手掛けた篠原監督が、いくつもの「ありがとう」を作品の人間模様を通して気づかせる。(映画『癒しのこころみ~自分を好きになる方法~』)

今の世の中にとって、必要な仕事であり、必要なことを気づかせてくれる作品 / 『花戦さ』『影踏み』など多彩な作品を手掛けた篠原監督が、いくつもの「ありがとう」を作品の人間模様を通して気づかせる。(映画『癒しのこころみ~自分を好きになる方法~』)

2020.07.03
監督
篠原哲雄さん
映画『花戦さ』(17)、『影踏み』(19)を手がけた篠原哲雄監督に「作品が生まれた経緯」や「撮影のこだわり」、さらに「キャスティング秘話」等 作品に対する想いをインタビューし探る。
映画『癒しのこころみ~自分を好きになる方法~』はどういった経緯でできたのですか?

 リラクゼーションという仕事は人の身体の施術や解しを行っていくわけですが、その仕事の意味や価値観を映画で問いかけていきたいというところから施術を行うセラピストを主人公にした映画の企画が持ち上がり、賛同したプロデューサーから僕は話をいただきました。セラピストは「施術を受けている人の精神面を知りながら、その人に最も良い施術をしていく」のですが、セラピスト自身も「仕事を通して幸せを感じていく」という循環があり、人に癒しを与える仕事とは自分自身への癒しでもあるということになります。「人を幸せにしたい」と思って仕事についた人たちの気持ち・仕事の役割を取材を通して知り、セラピストという職業は心身共に癒されたい現代人に必要な職業ではないかと強く感じ、映画化へ動き出しました。

――実在する題材を元に作品を作られているということで、企画前・企画後で新たに知ったという事などありますか?

 普段、自分も肩こりや腰に違和感を感じ辛い時は施術を受けにいくわけですが、室内で施術をするだけでは必ずしも癒されるわけではない、ということを知りました。今回お世話になった、リラクゼーションの会社のチームが、「富士山静養園」を利用して新人研修をやっているそうです。実は、あの富士の山麓は無医村なのです。村の人は、「富士山静養園」の園主の方が開設した診療所に通っています。西洋医学だけではなく、自然治癒で治していく統合医療を行う病院の施設で、日本でも珍しい形態だそうです。新しい試みで、医療そのもののあり方が変わってきているのだと思います。

――実際に、映画『癒しのこころみ~自分を好きになる方法~』の撮影で一番心掛けたことはなんですか?

 松井さんが施術をするシーンは、実際のサロンを使用したので、狭い中でどう撮るか苦労しました。サロンでの撮影は4日間しかなかったので、スタッフワークも凄く重要だと思っていました。撮影に無駄がないようにと、最小限の人数で作っていました。例えば移動車とイントレを持たないというルールを決めて。そういう撮影ならではの武器はカメラワークで臨場感を出したい時や高さを現すのに必要だったりするのですが、狭い場所なのでイントレを置くことより三脚で表せる範囲で撮ったり。施術の場面はベッドの間にミニレールという通常の移動車よりコンパクトなものを用意して、それを使っていました。

――――撮影のロケ場所についても聞かせてください。

 ロケ地は、富士山以外は神奈川県と東京がメインです。最初の4日間は東村山市の秋津というところのリラクゼーションのお店で撮りました。店の近くの道は東府中で撮っていたので、知っている人から見れば、東府中にあるお店と思われるかもしれません。松井さん演じる里奈が住んでいる町は日野市で撮っていたり、里奈が走って元プロ野球選手の碓氷のところに行くシーンは、用賀とか深沢あたりの世田谷区です。野球に関するシーンは神奈川県が多くて、バッティングセンターが藤沢市で、球場が相模原市です。ロケは神奈川県に4日。富士山が1日。東京の西部方面が4〜5日間。ラストシークエンスと里奈のかつての会社関係で1〜2日。移動日含め撮影期間は11〜12日間でした。

――――球場を借りるのは難しいのでしょうか?

 プロ野球の球団が試合をやるようなスタジアムの球場が必要だったのとクラブチームが練習試合をする球場が必要だったのです。でもスケジュールの都合上、撮影地を一箇所にまとめなければならなくて。さらにスタジアムは球場一杯に観客がいるように感じられるように撮ると。音も含めた表現ですね。プロの球場はホームベースの後ろに解説者の入るブースも必要で、これにピッタリだったのが、相模原の球場でした。プロ球団の球場は今では広告が目立つようになっているのですが、映画では広告をお見せすることができないので、ちょうど良かったです。「プロ野球の球場での試合として違和感なく観れるように」という所はこだわりました。

―――ロケ地に関して、撮影以外に楽しんだことはありますか?

 食事ですかね。撮影時、富士山の方ではほうとうを食べに行きました。実は、ロケハンの時に富士山近郊のおすすめの蕎麦屋がお休みで、そこはロケ当日にも時間の関係で行けなかった。ならば河口湖経由で富士に行くなら山梨名物のほうとうと決めたのでした(笑)

それ以外で言うと、秋津駅近くにあるローカルな定食屋が思い出に残っています。ロケ中は弁当が中心になるのでせめてロケハン時はその土地の名物やおすすめを食べておきたいのです。今回の映画には食べ物はあまり出てきませんが、ロケ地での食事は時に作品の中身にもつながりますから(笑)

―――キャスト決定の経緯を教えてください。

 この映画は「持っているはずの人とのコミュニケーション能力を、やむをえず削がれてしまった人」が、「何かの力で自分らしくなっていく話」です。一ノ瀬里奈役の松井愛莉さんの笑顔はとても素敵なので「閉ざされた世界から解放されていく」というものを描くと凄く絵になるのではないかと思いキャスティングしました。松井愛莉さんは、飛びぬけて突飛な何かをやるタイプではないけれど、じっくりと自分のことを大事にしていく人のように見えたので、それがこの役にぴったりだと思いました。

八木将康さんの「碓氷隼人」は、プロ野球にまだしがみつきたいと思って悪戦苦闘している設定だったので、本当に野球ができる人を選びたかったのです。偶然、LDHの方からも推薦があり、八木君が駒澤大学附属苫小牧高等学校で田中将大選手の一期先輩にあたる方だと知りました。さらに彼は現役時代に役の碓氷と同じようなトラウマに陥ったことがあると知り、まさにこの役は彼のためにあるのではないかと思う程でした。

―――篠原監督は、音楽にも毎回こだわられていますが、今回も想いはあったのですか?

 僕がここ数年興味を持っていたGENさんというアーティストがこの作品にはあうと思い依頼しました。彼は、局所性ジストニアでヴァイオリニストとして弾けなくなった時期があって、それを乗り越えて今に至った経緯がある人なのです。自分で癒しを実現した人なのです。この作品では途中に突然現れるヴァイオリニスト役でも登場してくれメインテーマをバッチリ演奏してくれました。最後の主題曲は関西出身のレゲエ・シンガーRAYさんが繋がったラッシュを見て作詞作曲してくれ、森林場面での神秘的な楽曲を女性ピアニストのSANOVAさんが即興のような弾き語りで作ってくれました。

―――コロナ禍を過ぎて、一般の方にどういう風に見て欲しいですか?

 僕は映画を映画館で観たいし、観て欲しいと思っています。東京の映画館が休館される前日も最後の回を映画館で観ましたし、映画館の休止はとても寂しかった。けれど実際に映画館の業務に携る方は、生半可な打撃ではなかったはず。今、映画館が再開し、映画を見る環境が徐々に開かれていることは大いなる喜びです。そういう時の流れの中で大変おこがましい言い方になりますが、この自分の「苦境を乗り越えていくことの目覚めを描いた」映画がタイムリーに公開されることはどこか運命的な気がします。オリンピックがなくなってしまったこの7月に上映が始まるということは、偶然だけど必然だと思いたいです。セラピストによる施術や野球選手の行末を描く物語はもちろんのこと、どんな人もそれぞれが「大事にすること、していること」を改めて見つめてみようということを声高にならずに描いたつもりです。

 

―――映画界を目指す若手にこうあって欲しい、ということはありますか?

 以前は若い人はがむしゃらにやるしかないと思っていましたが、今の時代は本当に必要なものが問われていくように思います。映画業界そのものがエンターテインメントに向き合わなければいけないような空気がありましたが、本当にそうなんだろうかと思います。本当に描くべきことを見詰めていく時代になるのではと思います。憧れだけでは出来ない仕事ということは変わらないけど、「好き」というだけでは務まらない気もします。それでも始めるなら、時には一歩立ち止まってどうしたいか、どうするのがいいかを考えて、時代の流れを感じることが大切な気がします。「映画という時間」は絶対に必要です。そこを念頭に置きながら、作っていきたいと思います。

―――ありがとうございました!

映画『花戦さ』(17)、『影踏み』(19)を手がけた篠原哲雄監督に「作品が生まれた経緯」や「撮影のこだわり」、さらに「キャスティング秘話」等 作品に対する想いをインタビューし探る。
映画『癒しのこころみ~自分を好きになる方法~』はどういった経緯でできたのですか?

 リラクゼーションという仕事は人の身体の施術や解しを行っていくわけですが、その仕事の意味や価値観を映画で問いかけていきたいというところから施術を行うセラピストを主人公にした映画の企画が持ち上がり、賛同したプロデューサーから僕は話をいただきました。セラピストは「施術を受けている人の精神面を知りながら、その人に最も良い施術をしていく」のですが、セラピスト自身も「仕事を通して幸せを感じていく」という循環があり、人に癒しを与える仕事とは自分自身への癒しでもあるということになります。「人を幸せにしたい」と思って仕事についた人たちの気持ち・仕事の役割を取材を通して知り、セラピストという職業は心身共に癒されたい現代人に必要な職業ではないかと強く感じ、映画化へ動き出しました。

――実在する題材を元に作品を作られているということで、企画前・企画後で新たに知ったという事などありますか?

 普段、自分も肩こりや腰に違和感を感じ辛い時は施術を受けにいくわけですが、室内で施術をするだけでは必ずしも癒されるわけではない、ということを知りました。今回お世話になった、リラクゼーションの会社のチームが、「富士山静養園」を利用して新人研修をやっているそうです。実は、あの富士の山麓は無医村なのです。村の人は、「富士山静養園」の園主の方が開設した診療所に通っています。西洋医学だけではなく、自然治癒で治していく統合医療を行う病院の施設で、日本でも珍しい形態だそうです。新しい試みで、医療そのもののあり方が変わってきているのだと思います。

――実際に、映画『癒しのこころみ~自分を好きになる方法~』の撮影で一番心掛けたことはなんですか?

 松井さんが施術をするシーンは、実際のサロンを使用したので、狭い中でどう撮るか苦労しました。サロンでの撮影は4日間しかなかったので、スタッフワークも凄く重要だと思っていました。撮影に無駄がないようにと、最小限の人数で作っていました。例えば移動車とイントレを持たないというルールを決めて。そういう撮影ならではの武器はカメラワークで臨場感を出したい時や高さを現すのに必要だったりするのですが、狭い場所なのでイントレを置くことより三脚で表せる範囲で撮ったり。施術の場面はベッドの間にミニレールという通常の移動車よりコンパクトなものを用意して、それを使っていました。

――――撮影のロケ場所についても聞かせてください。

 ロケ地は、富士山以外は神奈川県と東京がメインです。最初の4日間は東村山市の秋津というところのリラクゼーションのお店で撮りました。店の近くの道は東府中で撮っていたので、知っている人から見れば、東府中にあるお店と思われるかもしれません。松井さん演じる里奈が住んでいる町は日野市で撮っていたり、里奈が走って元プロ野球選手の碓氷のところに行くシーンは、用賀とか深沢あたりの世田谷区です。野球に関するシーンは神奈川県が多くて、バッティングセンターが藤沢市で、球場が相模原市です。ロケは神奈川県に4日。富士山が1日。東京の西部方面が4〜5日間。ラストシークエンスと里奈のかつての会社関係で1〜2日。移動日含め撮影期間は11〜12日間でした。

――――球場を借りるのは難しいのでしょうか?

 プロ野球の球団が試合をやるようなスタジアムの球場が必要だったのとクラブチームが練習試合をする球場が必要だったのです。でもスケジュールの都合上、撮影地を一箇所にまとめなければならなくて。さらにスタジアムは球場一杯に観客がいるように感じられるように撮ると。音も含めた表現ですね。プロの球場はホームベースの後ろに解説者の入るブースも必要で、これにピッタリだったのが、相模原の球場でした。プロ球団の球場は今では広告が目立つようになっているのですが、映画では広告をお見せすることができないので、ちょうど良かったです。「プロ野球の球場での試合として違和感なく観れるように」という所はこだわりました。

―――ロケ地に関して、撮影以外に楽しんだことはありますか?

 食事ですかね。撮影時、富士山の方ではほうとうを食べに行きました。実は、ロケハンの時に富士山近郊のおすすめの蕎麦屋がお休みで、そこはロケ当日にも時間の関係で行けなかった。ならば河口湖経由で富士に行くなら山梨名物のほうとうと決めたのでした(笑)

それ以外で言うと、秋津駅近くにあるローカルな定食屋が思い出に残っています。ロケ中は弁当が中心になるのでせめてロケハン時はその土地の名物やおすすめを食べておきたいのです。今回の映画には食べ物はあまり出てきませんが、ロケ地での食事は時に作品の中身にもつながりますから(笑)

―――キャスト決定の経緯を教えてください。

 この映画は「持っているはずの人とのコミュニケーション能力を、やむをえず削がれてしまった人」が、「何かの力で自分らしくなっていく話」です。一ノ瀬里奈役の松井愛莉さんの笑顔はとても素敵なので「閉ざされた世界から解放されていく」というものを描くと凄く絵になるのではないかと思いキャスティングしました。松井愛莉さんは、飛びぬけて突飛な何かをやるタイプではないけれど、じっくりと自分のことを大事にしていく人のように見えたので、それがこの役にぴったりだと思いました。

八木将康さんの「碓氷隼人」は、プロ野球にまだしがみつきたいと思って悪戦苦闘している設定だったので、本当に野球ができる人を選びたかったのです。偶然、LDHの方からも推薦があり、八木君が駒澤大学附属苫小牧高等学校で田中将大選手の一期先輩にあたる方だと知りました。さらに彼は現役時代に役の碓氷と同じようなトラウマに陥ったことがあると知り、まさにこの役は彼のためにあるのではないかと思う程でした。

―――篠原監督は、音楽にも毎回こだわられていますが、今回も想いはあったのですか?

 僕がここ数年興味を持っていたGENさんというアーティストがこの作品にはあうと思い依頼しました。彼は、局所性ジストニアでヴァイオリニストとして弾けなくなった時期があって、それを乗り越えて今に至った経緯がある人なのです。自分で癒しを実現した人なのです。この作品では途中に突然現れるヴァイオリニスト役でも登場してくれメインテーマをバッチリ演奏してくれました。最後の主題曲は関西出身のレゲエ・シンガーRAYさんが繋がったラッシュを見て作詞作曲してくれ、森林場面での神秘的な楽曲を女性ピアニストのSANOVAさんが即興のような弾き語りで作ってくれました。

―――コロナ禍を過ぎて、一般の方にどういう風に見て欲しいですか?

 僕は映画を映画館で観たいし、観て欲しいと思っています。東京の映画館が休館される前日も最後の回を映画館で観ましたし、映画館の休止はとても寂しかった。けれど実際に映画館の業務に携る方は、生半可な打撃ではなかったはず。今、映画館が再開し、映画を見る環境が徐々に開かれていることは大いなる喜びです。そういう時の流れの中で大変おこがましい言い方になりますが、この自分の「苦境を乗り越えていくことの目覚めを描いた」映画がタイムリーに公開されることはどこか運命的な気がします。オリンピックがなくなってしまったこの7月に上映が始まるということは、偶然だけど必然だと思いたいです。セラピストによる施術や野球選手の行末を描く物語はもちろんのこと、どんな人もそれぞれが「大事にすること、していること」を改めて見つめてみようということを声高にならずに描いたつもりです。

 

―――映画界を目指す若手にこうあって欲しい、ということはありますか?

 以前は若い人はがむしゃらにやるしかないと思っていましたが、今の時代は本当に必要なものが問われていくように思います。映画業界そのものがエンターテインメントに向き合わなければいけないような空気がありましたが、本当にそうなんだろうかと思います。本当に描くべきことを見詰めていく時代になるのではと思います。憧れだけでは出来ない仕事ということは変わらないけど、「好き」というだけでは務まらない気もします。それでも始めるなら、時には一歩立ち止まってどうしたいか、どうするのがいいかを考えて、時代の流れを感じることが大切な気がします。「映画という時間」は絶対に必要です。そこを念頭に置きながら、作っていきたいと思います。

―――ありがとうございました!

作品情報
映画『癒しのこころみ~自分を好きになる方法~』
  • INFORMATION

仕事の激務で心が折れてしまった一ノ瀬里奈(松井愛莉)は、偶然出会った有名セラピスト・鈴木カレン(藤原紀香)の施術体験で心と身体がつながっていることを実感し、思わずセラピストの道へ。最初からうまくいかないが、それでもお客様から「ありがとう」と言ってもらえた時に、今まで感じたことのない充実感が芽生えてきた。そんなある日、受け持ったお客様が、怪我のトラウマに苦しむ元プロ野球選手の碓氷隼人(八木将康)だと知り、自分の施術で再起を応援しようと決意。里奈は奔走し始める―――。

 

監督:篠原哲雄

脚本:鹿目けい子 ますもとたくや 錦織伊代 音楽:GEN(Dur moll・Vanir)

出演:松井愛莉 八木将康(劇団EXILE) 水野勝(BOYS AND MEN) 中島ひろ子 秋沢健太朗 矢柴俊博 橋本マナミ 渡辺裕之 藤原紀香 ほか

全国公開中!(c)ドリームパートナーズ

 

  • INTERVIEW

篠原哲雄(しのはら・てつお)監督

主な作品

『月とキャベツ』(96)

『洗濯機は俺にまかせろ』(99)

『はつ恋』(00)

『深呼吸の必要』(04)

『地下鉄(メトロ)に乗って』(06)

『花戦さ』(17)

『プリンシパル~恋する私はヒロインですか?~』(18)

『ばぁちゃんロード』(18)

『影踏み』(19)など多彩な作品を手掛ける。

 

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