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愛知県6市を舞台に、「結婚したい」男女のために奮闘する仲人たちの姿を描く。/映画『マリッジカウンセラー』前田監督と山﨑プロデューサーに『作品のこだわり』や『撮影の裏側』を聞く

2023.01.13
監督
前田直樹監督/山﨑歩プロデューサーさん

2022年9月16日(金)に愛知県で先行公開された映画『マリッジカウンセラー』。
愛知県6市と共に作り上げた本作がいよいよ2023年1月13日(金)から全国順次公開になります。
そこで、前田直樹監督と山﨑歩プロデューサーに、本作でのこだわりやロケーションへの想いを語っていただきました。

本作が生まれた経緯を教えてください
【山﨑プロデューサー】
きっかけは2010年に今の会社を立ち上げる時に参加した起業家向けのセミナーで、結婚相談所を開業するという方にお会いした事でした。元々、僕自身が大人のラブコメといいますか、恋愛ものをやってみたいとずっと思っていたので、当時進めていた別の映画企画が完成した後で、2017年に本格始動しました。
【前田監督】
2018年に僕と脚本の松井さんが企画チームに加わり、3人での取材が始まりました。まず初めに偏りのない全体像を掴むために座談会形式で数人の仲人さんたちに取材し、次に仲人像をより深く掘り下げるために個別にも多くのお話を聞きました。さらには結婚相談所で成婚した元会員さんもご紹介いただいてお話を伺ったり、実際のプロフィール交換会や婚活イベントにも参加して、取材を進めました。
映画『マリッジカウンセラー』で愛知県の6市をメイン舞台とした経緯を教えてください。
【前田監督】
2019年には第8稿まで脚本を練り上げ、2020年初頭から撮影に向けて現場スタッフに声をかけ始めていました。しかし、その矢先にコロナで制作が無期限延期となってしまいました。そこで、コロナ禍で映画を撮る方法を模索するテストケースとして、2021年2月には短編映画「マリッジカウンセラー 結衣の決意」を撮影しました。
この短編が愛知での撮影にシフトチェンジしたきっかけです。短編は当時長編映画のロケ地として想定していた東京と神奈川で撮影したのですが、僕自身が愛知県刈谷市出身ということもあり、愛知でも完成披露上映会を行ったんですね。その時、長編のロケ地探しで難航していたペデストリアンデッキを上映会場近くの駅で見つけたことで、「長編は関東ではなく、愛知で撮るというのもありかな」と考え始めました。
【山﨑プロデューサー】
主演の渡辺いっけいさんも愛知出身ということもあり、愛知でやれたら盛り上がるのではないかという話になって、まずは愛知県フィルムコミッション協議会に相談しました。そこから愛知県内各市のフィルムコミッションや観光協会を紹介してもらい、各市から挙げてもらったロケ候補地を実際にロケハンして、最終的に今回の6市で撮影させていただく事になりました。
6市の連携ならではの撮りやすさはありましたか?
【前田監督】
豊橋市や蒲郡市は最近よく映画、テレビのロケ撮影を誘致されているので、豊富な受入れノウハウが既にあったと思うのですが、経験の少ない他の市とも相談し合える関係性を持っていらっしゃって、いろいろな相談事がスムーズにできる体制が整っていた気がします。
あと、ロケ地探しの際に担当者が「市内でペデストリアンデッキはあるけど古民家はない」とはっきり言ってくれて、「うちにないところで隣の市にあるなら、そちらを使ってください」と、自分の市町だけで囲い込むスタンスがなかったのも市をまたいでロケ地を選定する事がスムーズに進んだ要因だと思います。
【山﨑プロデューサー】
普段の生活を考えると、いろんなメーカーのものを飲んだり、いろんなブランドの服を着たり、いろんなメーカーの車が走ったりしていて、それと一緒でいろんな場所にも行きますし、行動圏として一つの市だけで完結するということはまずないと思うんです。
もちろん、ご協力をしていただく以上、スポンサー企業やロケ地への配慮は必要ですが、今回は「三河」という比較的広いエリアの中で各市が協力してくださったので、本当にいろんな場所で撮影ができて、映像の中でも物語の中でもリアリティが生まれたと感じています。各市のフィルムコミッション同士が普段からやり取りをされていて、ノウハウやロケーションの情報を共有してくれていたので、すごく助けられたことが多かったですね。
劇中でこだわった点を教えてください
【前田監督】
先ほどの話と重複しますが、一つの市内だけで完結させず、近隣地域の6市にまたがってお見合いや婚活イベント、デートのシーンなどを散りばめたのはこだわりの一つです。各ロケ地が魅力的だったのもあり、行動圏としてもよりリアリティが生まれたと思います。
ストーリー上メイン舞台となる結婚相談所「とわえもわ」も、映画を見た人が「愛知県豊川市に行ったら本当に結婚相談所『とわえもわ』があるんじゃないか」と感じてもらえるように、見せる事にこだわりました。現地の人の温度感や出てくる茶菓子一つにもこだわりたくて、その想いを市の方に伝えると「わかりました!」と豊川市の銘菓を数多く用意していただきました。それを「とわえもわ」には散りばめています。
豊川市のマスコットキャラクター「いなりん」がそこら中にいることも分かりやすい例ですね。結衣さんの車のルームミラーにぶら下がっていたり、「とわえもわ」にもちょこんと座っていたり、さりげなく登場しています(笑)。映画のチラシにもルームミラーにぶら下がっているいなりんが映っていて、地元の人がいち早く気づいて下さいました。
それぞれの人物の描き方にもこだわりました。画一的に見えないようにそれぞれのキャラクターの違いを意識しつつ、そこにちゃんと存在する人物になるように意識しました。かといって方言で地方色を付け過ぎてしまうと、全国の皆さんが観て楽しんでいただく面ではプラスにならないと思ったので、それ以外の表現を模索しました。
どのキャストも輝いているように感じました。キャスティングはどのように行ったのでしょうか
【前田監督】
赤羽、結衣、十和子はイメージに合わせて、こちらからお声がけをさせていただいたのですが、それ以外の多くの役はオーディションで選びました。
それも普段とは少し違う形のオーディションで、まずは広く公募で応募者を募り、その方たちに過去の映像とプロフィールを出してもらって一次選考をしました。一次選考を通過した皆さんには台本閲覧にお越しいただき、台本を踏まえた形で「このキャラクターで私は応募したい」という希望を出してもらった上でもう一度書類選考をしたんです。そこを通過した方たちに、脚本から選んだ特定のシーンで実際に演技をしてもらうという流れでオーディションしました。
そこもキャストが光って見えた要因の一つになっているのではないかと思っています。映画の一般的なキャスティングでは、監督など制作側のイメージだけで決まることが多いと思いますが、今回は俳優の「このキャラクターを演じたい!」という想いが先に来ています。それからオーディションをして、僕らも「この俳優さんに演じて欲しい!」という方たちを選ばせていただいたので、言うならば、相思相愛の形で成り立っている配役が多いです。また、選ばれた俳優はオーディションで既に僕ともキャラクターに関してアイデアを一度共有しているので、現場前から自信をもって、より深みのある役作りが出来ていたのではないかと思います。
コロナ下ならではの工夫はありましたか
【前田監督】
スタッフの人数をミニマムにした事だと思います。普段の撮影に比べて随分と少ない人数で撮影を行いました。人数が少ない状況で、俳優の皆さんにもご苦労をおかけしましたが、「自分でやれることは自分でやります」とご協力頂けたことは助かりました。例えばプロフィールをピックアップするシーンを撮影する際に、普段なら持ち道具スタッフや助監督が、俳優がお芝居しやすいようにテイクごとにセットし直します。でも今回は俳優が「いいですよ、自分でやりますから」とご自身でやってくれたこともあり、足りないスタッフの人数をカバーしてもらったと思います。
【山﨑プロデューサー】
メインスタッフの多くが短編映画と共通でしたので、コアな部分での意思疎通は元々出来ていたと思いますが、長編でもスタッフが通常より少なかった分、風通しの良いコミュニケーションが取れたのではないでしょうか。トップダウンで上からだんだんと話が伝わるというよりは、人数が少なかったからこそ誰とでも直にやりとりができて、無駄の少ないコミュニケーションが取れていたと思います。
選ぶのに苦労したロケ地はどこですか?
【前田監督】
やはりペデストリアンデッキですね。「とわえもわ」以外に赤羽にとってのキーとなる場所としてペデストリアンデッキを考えていたので。企画時にイメージしていたのは大宮駅でした。大宮駅前のペデストリアンデッキは駅から駅前のホテルまでつながっていて、さらにそのホテルにはラウンジがあり、お見合いをするにはとても良い雰囲気でした。そのイメージを共有して、脚本に落とし込んでもらっていたのでペデストリアンデッキ探しはこだわっていました。
【山﨑プロデューサー】
とはいえ往来の激しい関東圏では撮影に適した場所がなかなか見つからなかったので、一度は「ペデストリアンデッキをやめましょうか」という話も出て、脚本も書き直してもらったんです。それでも愛知でいくつかの候補を見せてもらい、ここでなら撮れると思えたので、脚本家には申し訳なかったのですがもう一度書き直してもらいました。
【前田監督】
もちろん、すぐにイメージ通りのペデストリアンデッキが見つかったわけではありませんが、本編で使用しているあのストレートのペデストリアンデッキを見つけて、画的に面白いなと思ったこと、さらにはホテルではないですがリアルに結婚式場に直結していることを発見して、プロデューサーから岡崎のフィルムコミッションに相談してもらい、イメージ通りの場所で撮影することができました。そのペデストリアンデッキの下の広場が「出会いの杜公園」という素敵な名前だったのには、ご縁を感じました。
作品の中で一番印象に残っているロケ地はどこですか?
【前田監督】
ひとつを選ぶのはとても難しいですけれど、メインの結婚相談所「とわえもわ」はその一つです。映画の5割ぐらいはあの場所で進行していて、メインの3人が出入りするシーンなので、小道具もこだわって作っていますし、美術デザイナーにしっかりとセットデザインしてもらっています。
撮影が大体20日間だったのですが、赤羽の成長物語なので、シーンは可能な限りは時系列通りに撮りたいと思っていました。ですからロケ場所をお借りした千両宝辺のオーナーには無理を言って、美術の飾り込みなどの準備から撤収まで1か月以上借りっぱなしのまま、僕らが違うところでロケしている最中もずっと「とわえもわ」のままにしてもらっていました。【山﨑プロデューサー】
「とわえもわ」の候補は各市から挙がっていました。物語の中でもとても重要なロケーションですし、各市イチ押しの素晴らしいところばかりで、そんなみなさまの想いを感じながらだったので、選ぶのがとても難しかったです。
今後ロケ地に求めることはありますか?
【前田監督】
今回は6市に協力していただいたことで、映画にとって必要不可欠で、一か所では完結しえないロケ地やモノ、エキストラを集められました。他の地域やロケ地でも、そのような協力体制があると映画が豊かになると思います。そこにないものを隣の市や県内の広い地域で協力してご提供いただけると、関わった皆さんにも「自分たち全員で作った映画だ」とより強く感じてもらえて、より豊かな映画制作体験を得られるのではと思います。
最後に、映像制作者、映像業界、プロデューサーを目指す若い方世代の方々にメッセージをいただけますか。
【前田監督】
今回の『マリッジカウンセラー』では、「こういう風に撮ったら面白いんじゃない?」という周りの声を聞けるスタンスをとれたかなと思います。「他にこういうのもありますよ」という別の案を聞いて、それを上手く取り入れる事ができたからこそ、本作は僕のイメージやアイデアだけで作る以上に良いものになったと思っています。オープンマインドで色々なものに対して、周りの意見をできるだけ自分に取り入れられるように頑張っていくと良いと思います。
一方で、自分のスタイルは持ち続けた方がいいかなとも思いますね。うまくコミュニケーションをとってリスペクトをしつつ、良いものは取り入れれば良いと思いますが、自分を全部曲げてしまうと、完成したものが誰でもできるものになってしまう。何本も何本も作品をつくっていけば、その人ならではのスタイルは周りに認めてもらえると思うので、こだわりを持って押し切るところは押し切って頑張る、っていうのは必要かなと思います。
【山﨑プロデューサー】
 すごく狭い業界なので人との繋がりがとても大事だと思います。なので、関わるすべての人に感謝やリスペクトを常に抱いていてほしいなと思います。関わってくれるキャスト、スタッフ、地域の皆さんを大切にすることでやりやすい環境は出来上がると思いますし、まずはそこを大事にしてほしいです。
そして、受け身にならず積極的になってほしいですね。参加した現場で目にしたよくないところは反面教師にして改善していってほしいですし、様々なアプローチの中から作品にとってベストだと思える道をキャストやスタッフ、関係者と協力しながら選択していってほしいです。
 人と作品に誠実であれば、横の繋がりも生まれますし、次の作品にも呼んでもらえるようになります。そういうご縁を大事にしながらどんどん経験を積み、面白いと思える作品をいっぱい作っていってほしいと思います。僕らが引退した後も、いい映画を観たいとやっぱり思うので(笑)

――ありがとうございました!!
作品情報
映画『マリッジカウンセラー』
 大手不動産会社に勤める赤羽昭雄はトップ営業だった過去の栄光を自慢し、パワハラ・セクハラ当たり前の鬱陶しいオヤジ。ある日のこと、赤羽は会社からの辞令で、結婚相談所「とわえもわ」に出向することに。そこは、カリスマ仲人である母の後を継いだ時田結衣が切り盛りしている結婚相談所だった。
 最初は「物件紹介も結婚相手の紹介も大差ない」と高をくくっていた赤羽だが、“3回目のデートから先に進んだことがない”会社員、30代のうちに結婚したかった女性など、それぞれに事情を抱えた個性的な会員を前に、予想外の苦労の連続。一方の結衣も、真摯に会員と向き合いながらも、自分の手腕に自信を持てずにいた。最初こそ価値観の違いから衝突する2人だが、互いに足りないものを補い合い、小さな奇跡を起こしていく―――。

【作品情報】
映画『マリッジカウンセラー』
出演:渡辺いっけい 松本若菜 宮崎美子
青山倫子 永山たかし 坂口涼太郎 呉城久美 久田莉子 / 円城寺あや
監督:前田直樹 脚本:松井香奈
製作:「マリッジカウンセラー」フィルムパートナーズ
©2022「マリッジカウンセラー」フィルムパートナーズ

【Interview】
監督:前田直樹さん
プロデューサー:山﨑歩さん
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