凄く素敵な物語だと思ったのと同時に、“声”がタイムスリップするという話を、映像でどう表現すればいいのか悩みました。その時に、ファンタジックさを重視するのではなく、普通の男女の、純粋で強い想いが奇跡を起こす、という点をクローズアップして、相手を想うピュアで一番強い気持ちをきっちり描ければ、映画の武器になって、皆さんに心地よさがしっかりと届くのではないかと考えました。
たくさんありますね。主人公の平野は、高橋さんが格好よくなりすぎるのではと心配していましたが、高橋さん自身、その辺りの演技のバランスが秀逸で、僕の想像を超えた素晴らしいお芝居を沢山見せてくださいました。川口さんは実年齢より少し上で落ち着いている役でしたので、感情にのせて演じるには殻を破らないといけないのではないかと思っていたのですが、全くそんなことはありませんでした。熱量が必要な芝居もできるし、常に役の気持ちから入って行く、本当に素敵な映画女優でした。
お二人の相性もそうでしょうし、芝居に向かうベクトルが、この映画をより良くしてくれていると思います。
最初は、昔の洋館のような不思議な構造の建物を探そうとスタートしたのですが、全く見つからず苦労しました。素敵な洋館は出てくるのですが、マンションに見えなかったり、人が住んでいるように見えないものばかりで。それぞれの棟が向かい合った構造で、中庭もあるという条件の場所はなかなか無いものですが、マンションの構造は原作の要ですし、台本の設定を変えるわけにはいかなかったんです。
試行錯誤の末、一ヶ月半かかりましたが、不動産物件の中からあのマンションを見つけた時は、嬉しかったですね。すぐに制作部に交渉をはじめて貰いました。場所は、埼玉県の飯能市です。実際に住まわれている方も大勢いらっしゃったので、1軒1軒協力をお願いして貰って、ようやく撮影することができました。撮影時期は寒かったので、9月に見えるように庭に植物をたくさん飾りましたが、建物の構造には手を入れていません。
同じ間取りの部屋なので、物や灯りの質感で違いを出しました。ライトの種類も変えて、志織は暖色系、平野はブルー系統にしています。また光の色味だけではなく、二人の人物設定をするうえで、履歴書を細かく作って考えました。志織はどんな家庭に育ち、どんな服が好きで、平野はどんな小説を読んでいるのか、他にはどんな趣味があるか?など、細かい人物設定をして、皆と共有していきました。
話がファンタジックなので、衣裳部、美術部、小道具スタッフから役者さんにも履歴書を配って統一性を出すことで、地に足がついたものにしようと思いました。部屋の中を素敵だと思ってもらいたいのですが、装飾品だけが綺麗で、人物が住んでいないようには思われたくなかったので、お互いが食事を作り、二人で食べるるシーンも入れています。役者さんは特に履歴書を演技の参考にしていないかもしれませんが、面白がって見ていましたね。僕もこれを撮影に直接生かそうとは考えてはいません。役者さんも、役のイメージを掴むのに困ったことがあった時に使う程度だったのではないかと思います。映画制作で役どころの履歴書を作るというのは、スタッフ・役者間のイメージ共有の量が増えるので、昔から使われてきた手法です。
冒頭の公園は、神奈川県立相模原公園です。ここを選んだのは噴水を含めてファンタジー感が出せるかなと思ったからです。もう一つ横浜の高台にある公園は地元的な地に足がついた感じを出したくて、対比を意識しました。制作部は絶景ポイントをたくさん見つけて提案してくれたのですが、このシーンは先ほど言った「地に足がついた」感じを出すために、近所の公園も探して欲しいとお願いしました。スペシャリティばかりを抽出してしまうとファンタジックな要素ばかりが強くなって、現実から離れてしまうと思ったからです。
平野を尾行していた志織が、平野がパフェを食べる姿を目撃するシーンは、東京・紀尾井町のPARK SIDE TABLESというカフェで撮影しました。商談にも使えそうな雰囲気で、かつオシャレな店を探しました。劇中のパフェはお願いして特別に作っていただいたものです。
平野と志織が食事をした海が見えるレストランは、茅ヶ崎迎賓館です。あちらは結婚式場なので食事だけでは利用できないと思います。その街で一番のレストランという設定なので、少し身の丈にあっていなくても画として見せる素敵なロケーションを選びました。高橋さんが、こんなところに来たことがないから落ち着かないというそわそわした芝居をしています。
海辺のシーンは湘南ですが、通年サーファーがいる湘南の海で、全く人がいない穴場を見つけてくれたのは制作スタッフです。いくらドローンで上に上がっても人が映ってこないのが、違和感があり撮っていて恐怖を感じました(笑)。あんな場所があるのは僕も知らなかったですね。色々とオーダーもしましたが、制作部が見つけてくれたロケーションも多いです。
やはりライブ感ですね。もちろんセットで綿密に作りこんだものも芸術性が高いですが、コントロールが効かないところがライブとして深みを与えるのではないでしょうか。例えば、想像していたよりも素敵な雲が出たり、綺麗な夕日が見られたりする、そういうものが画を深くしてくれます。そのライブ感は凄く大事にしたいと考えています。
自分のアイデアを沢山出してくれる人が良いですね。意見をしてもらったほうが、良いも悪いも言えます。こちらの言ったところを探してきてくれるのも良いのですが、自分なりに読んで解釈して、こういう利点がある、こういう考え方もあると、どんどん提案してくれた方が僕は良いですね。少なくとも、僕は助監督時代に、監督に対して自分の提案をしていました。
凄く素敵な物語だと思ったのと同時に、“声”がタイムスリップするという話を、映像でどう表現すればいいのか悩みました。その時に、ファンタジックさを重視するのではなく、普通の男女の、純粋で強い想いが奇跡を起こす、という点をクローズアップして、相手を想うピュアで一番強い気持ちをきっちり描ければ、映画の武器になって、皆さんに心地よさがしっかりと届くのではないかと考えました。
たくさんありますね。主人公の平野は、高橋さんが格好よくなりすぎるのではと心配していましたが、高橋さん自身、その辺りの演技のバランスが秀逸で、僕の想像を超えた素晴らしいお芝居を沢山見せてくださいました。川口さんは実年齢より少し上で落ち着いている役でしたので、感情にのせて演じるには殻を破らないといけないのではないかと思っていたのですが、全くそんなことはありませんでした。熱量が必要な芝居もできるし、常に役の気持ちから入って行く、本当に素敵な映画女優でした。
お二人の相性もそうでしょうし、芝居に向かうベクトルが、この映画をより良くしてくれていると思います。
最初は、昔の洋館のような不思議な構造の建物を探そうとスタートしたのですが、全く見つからず苦労しました。素敵な洋館は出てくるのですが、マンションに見えなかったり、人が住んでいるように見えないものばかりで。それぞれの棟が向かい合った構造で、中庭もあるという条件の場所はなかなか無いものですが、マンションの構造は原作の要ですし、台本の設定を変えるわけにはいかなかったんです。
試行錯誤の末、一ヶ月半かかりましたが、不動産物件の中からあのマンションを見つけた時は、嬉しかったですね。すぐに制作部に交渉をはじめて貰いました。場所は、埼玉県の飯能市です。実際に住まわれている方も大勢いらっしゃったので、1軒1軒協力をお願いして貰って、ようやく撮影することができました。撮影時期は寒かったので、9月に見えるように庭に植物をたくさん飾りましたが、建物の構造には手を入れていません。
同じ間取りの部屋なので、物や灯りの質感で違いを出しました。ライトの種類も変えて、志織は暖色系、平野はブルー系統にしています。また光の色味だけではなく、二人の人物設定をするうえで、履歴書を細かく作って考えました。志織はどんな家庭に育ち、どんな服が好きで、平野はどんな小説を読んでいるのか、他にはどんな趣味があるか?など、細かい人物設定をして、皆と共有していきました。
話がファンタジックなので、衣裳部、美術部、小道具スタッフから役者さんにも履歴書を配って統一性を出すことで、地に足がついたものにしようと思いました。部屋の中を素敵だと思ってもらいたいのですが、装飾品だけが綺麗で、人物が住んでいないようには思われたくなかったので、お互いが食事を作り、二人で食べるるシーンも入れています。役者さんは特に履歴書を演技の参考にしていないかもしれませんが、面白がって見ていましたね。僕もこれを撮影に直接生かそうとは考えてはいません。役者さんも、役のイメージを掴むのに困ったことがあった時に使う程度だったのではないかと思います。映画制作で役どころの履歴書を作るというのは、スタッフ・役者間のイメージ共有の量が増えるので、昔から使われてきた手法です。
冒頭の公園は、神奈川県立相模原公園です。ここを選んだのは噴水を含めてファンタジー感が出せるかなと思ったからです。もう一つ横浜の高台にある公園は地元的な地に足がついた感じを出したくて、対比を意識しました。制作部は絶景ポイントをたくさん見つけて提案してくれたのですが、このシーンは先ほど言った「地に足がついた」感じを出すために、近所の公園も探して欲しいとお願いしました。スペシャリティばかりを抽出してしまうとファンタジックな要素ばかりが強くなって、現実から離れてしまうと思ったからです。
平野を尾行していた志織が、平野がパフェを食べる姿を目撃するシーンは、東京・紀尾井町のPARK SIDE TABLESというカフェで撮影しました。商談にも使えそうな雰囲気で、かつオシャレな店を探しました。劇中のパフェはお願いして特別に作っていただいたものです。
平野と志織が食事をした海が見えるレストランは、茅ヶ崎迎賓館です。あちらは結婚式場なので食事だけでは利用できないと思います。その街で一番のレストランという設定なので、少し身の丈にあっていなくても画として見せる素敵なロケーションを選びました。高橋さんが、こんなところに来たことがないから落ち着かないというそわそわした芝居をしています。
海辺のシーンは湘南ですが、通年サーファーがいる湘南の海で、全く人がいない穴場を見つけてくれたのは制作スタッフです。いくらドローンで上に上がっても人が映ってこないのが、違和感があり撮っていて恐怖を感じました(笑)。あんな場所があるのは僕も知らなかったですね。色々とオーダーもしましたが、制作部が見つけてくれたロケーションも多いです。
やはりライブ感ですね。もちろんセットで綿密に作りこんだものも芸術性が高いですが、コントロールが効かないところがライブとして深みを与えるのではないでしょうか。例えば、想像していたよりも素敵な雲が出たり、綺麗な夕日が見られたりする、そういうものが画を深くしてくれます。そのライブ感は凄く大事にしたいと考えています。
自分のアイデアを沢山出してくれる人が良いですね。意見をしてもらったほうが、良いも悪いも言えます。こちらの言ったところを探してきてくれるのも良いのですが、自分なりに読んで解釈して、こういう利点がある、こういう考え方もあると、どんどん提案してくれた方が僕は良いですね。少なくとも、僕は助監督時代に、監督に対して自分の提案をしていました。
(STORY)
ちょっと不思議なマンションに引っ越してきた志織(川口春奈)は、小説家志望の隣人・平野(高橋一生)と出会う。その新しい部屋で、突然“1年後の未来からの声”を耳にした志織は、最初は信じなかったが、“未来の声”の予言通りのことが次々に起き、やがて、その声の主は志織が強盗殺人にあうところを救ってくれたことがわかる。志織から相談を受けた平野は、志織が助かったことによってタイムパラドックスが生じ、1年後に彼女の存在が消えてしまうことに気づく。彼女を救う唯一の方法は、“未来からの声”の主を探すことだと知った平野は、志織と共に奔走する。そして、タイムリミットが迫る中、愛する人を救うため平野は“ある決断”をする―。
監督:山本透
原作:松尾由美『九月の恋と出会うまで』(双葉文庫)
出演:高橋一生、川口春奈、浜野謙太、中村優子、
川栄李奈、古館佑太郎、ミッキー・カーチスほか
3月1日(金)全国ロードショー
(C) 松尾由美/双葉社 (C)2019 映画「九月の恋と出会うまで」製作委員会
山本 透(やまもと・とおる)監督
1969年、東京都生まれ。助監督として山崎 貴監督、本広克行監督ら数多くの作品に携わり、2008年『キズモモ。』で長編映画監督デビュー。これまでの監督・脚本作品に、『グッモーエビアン!』(12年)、『探検隊の栄光』(15年)、『猫なんかよんでもこない。』(16年)、『わたしに××しなさい!』(18年)などがある。