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ホーム > 映像関係者の声 > プロデューサーインタビュー > 山田洋次監督20年ぶりの喜劇/こだわりのロケ地と、描きたかった家族とは――

山田洋次監督20年ぶりの喜劇/こだわりのロケ地と、描きたかった家族とは――

2015.12.25
プロデューサー
深澤 宏さん

1959年、東京都生まれ。1982年に松竹株式会社に入社し、テレビのプロデューサーを経て、映画プロデューサーに。山田監督とのコンビは長く、『男はつらいよ』シリーズ(87~95)、『たそがれ清兵衛』(02)、『武士の一分』(06)、『小さいおうち』(14)など多数。そのほか『釣りバカ日誌』シリーズ(88~90、94、00~09)、『超高速!参勤交代』(14)、『愛を積むひと』(15)などを手掛けている。2016年6月18日には黒沢清監督の『クリーピー』が控えている。

映画『東京家族』と同じキャストを起用した理由は?

 『東京家族』のキャストは、橋爪さん含めメインの方が8名いますが、みんなすごく仲が良くなって、撮影現場はいつも和気藹々としていました。山田洋次監督や僕がいるロケバスの中でも、次もまた一緒にやりましょうよと話して盛り上がっていたんです。それで、撮影が終わって、監督と次回作は何にしようかと話していた時、監督もいろいろ企画をお持ちでしたが、「またあの8人で作ろう」ということになって…。まあキャスト発信で進みだしたとも言えますね。

今回の脚本はどのような行程で考えられたのでしょうか

 本作の脚本もそうでしたが、いつも、東京・神楽坂にある“和可菜”という旅館で打合せをするところから始まります。山田監督と共同脚本家の平松恵美子さんの打合わせにプロデューサーの私が加わって話をするという流れで今回も1本の脚本ができました。昔は、監督も「モノ書き旅館」と呼ばれるこの宿に何日も泊まり込んで執筆することが多かったのですが、今はパソコンが主流になってきたので、旅館で書くことが減ってきました。それでも、僕たちにとっては、いつもここがスタート地点です。

映画『家族はつらいよ』は、山田洋次監督20年ぶりの喜劇になります。 作品を通して伝えたかったこととは何ですか

 今回の『家族はつらいよ』は、“ど真ん中”の喜劇という意味では20年ぶりの作品です。とにかく泣いて笑ってもらえればと思います。山田監督は「喜劇」が好きで、『男はつらいよ』の後も『虹をつかむ男』という喜劇を撮っています。そのほか、『たそがれ清兵衛』をはじめ、『母べえ』、『おとうと』、『母と暮せば』にしても、劇中に少しずつ喜劇の要素が入っているんです。

 そして、本作のストーリーに関しては、橋爪さん、吉行さん演じる結婚50年を迎えた熟年夫婦に起こる「離婚危機」という問題を発端に、家族それぞれの不満が出てくるという内容です。ここからみても分かるように、家族とは時に面倒くさく、鬱陶しく、やっかいなものですが、素敵なものです。映画を観ている時だけでも家族の顔を思い出して、愛おしいものであるということを感じて欲しいなと思います。

現場の雰囲気はいかがでしたか

 『東京家族』の撮影時同様、今回も和やかでしたよ。撮影の合間には、橋爪さんが夏川さんをからかい、そこに他の俳優さんたちが乗っかってくるというのがお決まりのパターンでした。8人は自分の家に帰ってきたような感じで、本当に楽しそうに、うれしそうにやっていましたね。

劇中で描いた父親像、家族像で意識して表現した点はどこですか

 現代は核家族化が進んでいますが、かつては家族で一緒にご飯を食べたり、団欒したり、ひとつ屋根の下に暮らすのが当たり前でした。そして、橋爪さん演じる父・周造が言うように、昔のお父さんは一家を支えるために、朝から晩までがむしゃらに働いていたんです。それがある日突然、奥さんに欲しいものを尋ねたら、離婚届だと言われたわけですから、それはもう青天の霹靂だと思います。

 さらに、女性に関しても昔は社会で働くという機会が少なかったので、奥さんには離婚という選択肢は少なく、旦那さんと一緒に暮らして、家事をして、家庭を守るというのが役目でした。それが今は、働く機会が増え、夜もコンビニに行けば何でも食べられるし、一人で暮らせる人が多くなってきました。その結果、旦那さんが定年退職したあとは、無理をして一緒にいる必要がなくなり、熟年離婚に繋がるんですね。本作に関しては、「昔はこうだった」というノスタルジックな意味ではなく、時代と共に変化する家族の形を取り入れながら、今の夫婦問題を踏まえて作りました。

――主な舞台となる平田家はどこで撮影したのですか。家の設定にこだわりは?

 平田家の外観は、田園都市線の鷺沼駅近くの民家をお借りしました。山田監督は、坂道にある家(坂の下に郊外の町並みが少し見えるという設定)にこだわっていましたので、東京23区から離れたところを探しました。山田監督は最近、坂が好きなんですよ。『おとうと』や『東京家族』、『小さいおうち』に出てくる家も坂のところに立っているでしょう。坂があると町の風景がワンカットで分かるし、撮り方によって見える景色が全然違う。そういう意味で面白いですよね。しかし、坂があることでセットが地べたに建てられず、家を上げないといけないので、セットを建て込む時は結構大変なんですよ(笑)。 また、室内はセットですが、“家族がひとつになる場所”を意識してつくりました。階段が玄関のところから上がるように設計せず、リビングを通らないと2階に上がれないようにして、部屋に家族が集まるようにしました。

最後に、深澤プロデューサーが、制作現場で求める人材とは?

 色々ありますが、大事な要素のひとつとして「明るい人」かな。現場は60~70人程のスタッフと一緒に作るので、現場の人間が明るくないと、楽しい仕事ってできないんですよね。なので、新しく入ってくる人たちには「いつも明るく元気でいなさい」と言っています。知識や教養があるに越したことはないけれど、やっぱり現場はチームワークですからね。明るくて皆に好かれるような人物でないと、長続きはしません。持論を押し通そうとする人って、その言葉は正論かもしれないですが、「現場で皆と仕事をする時には話す内容のTPOを考えなさい」と言うんです。2人で酒を飲んでいる時ならば、全然構わないですが(笑)。

 僕もプロデューサーになりたての頃に言われたのが、まず「健康でいること」そして、「明るく現場にいること」でしたね。憂鬱な暗い顔をしていると、現場に必ず伝染しますから。もっと言うならば、現場の人間って、見ていないようで意外と周囲を見ていますからね。僕もみんなの顔を見ています。最初にセットに入った時、ぐるっと一周してスタッフの顔を見るんですよ。僕はプロデューサーであって、現場の技術者ではないので、撮影現場に入ると客観的になります。「今日は◯◯部と◯◯部がぎくしゃくしているな」とか「この人、今日は言葉に険があるな」とかね(笑)。そりゃあ、人間なので現場にまったく私情が持ち込まれないとは言えないですが、基本的には「明るく」「元気に」「美しく」というのが僕の3原則です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1959年、東京都生まれ。1982年に松竹株式会社に入社し、テレビのプロデューサーを経て、映画プロデューサーに。山田監督とのコンビは長く、『男はつらいよ』シリーズ(87~95)、『たそがれ清兵衛』(02)、『武士の一分』(06)、『小さいおうち』(14)など多数。そのほか『釣りバカ日誌』シリーズ(88~90、94、00~09)、『超高速!参勤交代』(14)、『愛を積むひと』(15)などを手掛けている。2016年6月18日には黒沢清監督の『クリーピー』が控えている。

映画『東京家族』と同じキャストを起用した理由は?

 『東京家族』のキャストは、橋爪さん含めメインの方が8名いますが、みんなすごく仲が良くなって、撮影現場はいつも和気藹々としていました。山田洋次監督や僕がいるロケバスの中でも、次もまた一緒にやりましょうよと話して盛り上がっていたんです。それで、撮影が終わって、監督と次回作は何にしようかと話していた時、監督もいろいろ企画をお持ちでしたが、「またあの8人で作ろう」ということになって…。まあキャスト発信で進みだしたとも言えますね。

今回の脚本はどのような行程で考えられたのでしょうか

 本作の脚本もそうでしたが、いつも、東京・神楽坂にある“和可菜”という旅館で打合せをするところから始まります。山田監督と共同脚本家の平松恵美子さんの打合わせにプロデューサーの私が加わって話をするという流れで今回も1本の脚本ができました。昔は、監督も「モノ書き旅館」と呼ばれるこの宿に何日も泊まり込んで執筆することが多かったのですが、今はパソコンが主流になってきたので、旅館で書くことが減ってきました。それでも、僕たちにとっては、いつもここがスタート地点です。

映画『家族はつらいよ』は、山田洋次監督20年ぶりの喜劇になります。 作品を通して伝えたかったこととは何ですか

 今回の『家族はつらいよ』は、“ど真ん中”の喜劇という意味では20年ぶりの作品です。とにかく泣いて笑ってもらえればと思います。山田監督は「喜劇」が好きで、『男はつらいよ』の後も『虹をつかむ男』という喜劇を撮っています。そのほか、『たそがれ清兵衛』をはじめ、『母べえ』、『おとうと』、『母と暮せば』にしても、劇中に少しずつ喜劇の要素が入っているんです。

 そして、本作のストーリーに関しては、橋爪さん、吉行さん演じる結婚50年を迎えた熟年夫婦に起こる「離婚危機」という問題を発端に、家族それぞれの不満が出てくるという内容です。ここからみても分かるように、家族とは時に面倒くさく、鬱陶しく、やっかいなものですが、素敵なものです。映画を観ている時だけでも家族の顔を思い出して、愛おしいものであるということを感じて欲しいなと思います。

現場の雰囲気はいかがでしたか

 『東京家族』の撮影時同様、今回も和やかでしたよ。撮影の合間には、橋爪さんが夏川さんをからかい、そこに他の俳優さんたちが乗っかってくるというのがお決まりのパターンでした。8人は自分の家に帰ってきたような感じで、本当に楽しそうに、うれしそうにやっていましたね。

劇中で描いた父親像、家族像で意識して表現した点はどこですか

 現代は核家族化が進んでいますが、かつては家族で一緒にご飯を食べたり、団欒したり、ひとつ屋根の下に暮らすのが当たり前でした。そして、橋爪さん演じる父・周造が言うように、昔のお父さんは一家を支えるために、朝から晩までがむしゃらに働いていたんです。それがある日突然、奥さんに欲しいものを尋ねたら、離婚届だと言われたわけですから、それはもう青天の霹靂だと思います。

 さらに、女性に関しても昔は社会で働くという機会が少なかったので、奥さんには離婚という選択肢は少なく、旦那さんと一緒に暮らして、家事をして、家庭を守るというのが役目でした。それが今は、働く機会が増え、夜もコンビニに行けば何でも食べられるし、一人で暮らせる人が多くなってきました。その結果、旦那さんが定年退職したあとは、無理をして一緒にいる必要がなくなり、熟年離婚に繋がるんですね。本作に関しては、「昔はこうだった」というノスタルジックな意味ではなく、時代と共に変化する家族の形を取り入れながら、今の夫婦問題を踏まえて作りました。

――主な舞台となる平田家はどこで撮影したのですか。家の設定にこだわりは?

 平田家の外観は、田園都市線の鷺沼駅近くの民家をお借りしました。山田監督は、坂道にある家(坂の下に郊外の町並みが少し見えるという設定)にこだわっていましたので、東京23区から離れたところを探しました。山田監督は最近、坂が好きなんですよ。『おとうと』や『東京家族』、『小さいおうち』に出てくる家も坂のところに立っているでしょう。坂があると町の風景がワンカットで分かるし、撮り方によって見える景色が全然違う。そういう意味で面白いですよね。しかし、坂があることでセットが地べたに建てられず、家を上げないといけないので、セットを建て込む時は結構大変なんですよ(笑)。 また、室内はセットですが、“家族がひとつになる場所”を意識してつくりました。階段が玄関のところから上がるように設計せず、リビングを通らないと2階に上がれないようにして、部屋に家族が集まるようにしました。

最後に、深澤プロデューサーが、制作現場で求める人材とは?

 色々ありますが、大事な要素のひとつとして「明るい人」かな。現場は60~70人程のスタッフと一緒に作るので、現場の人間が明るくないと、楽しい仕事ってできないんですよね。なので、新しく入ってくる人たちには「いつも明るく元気でいなさい」と言っています。知識や教養があるに越したことはないけれど、やっぱり現場はチームワークですからね。明るくて皆に好かれるような人物でないと、長続きはしません。持論を押し通そうとする人って、その言葉は正論かもしれないですが、「現場で皆と仕事をする時には話す内容のTPOを考えなさい」と言うんです。2人で酒を飲んでいる時ならば、全然構わないですが(笑)。

 僕もプロデューサーになりたての頃に言われたのが、まず「健康でいること」そして、「明るく現場にいること」でしたね。憂鬱な暗い顔をしていると、現場に必ず伝染しますから。もっと言うならば、現場の人間って、見ていないようで意外と周囲を見ていますからね。僕もみんなの顔を見ています。最初にセットに入った時、ぐるっと一周してスタッフの顔を見るんですよ。僕はプロデューサーであって、現場の技術者ではないので、撮影現場に入ると客観的になります。「今日は◯◯部と◯◯部がぎくしゃくしているな」とか「この人、今日は言葉に険があるな」とかね(笑)。そりゃあ、人間なので現場にまったく私情が持ち込まれないとは言えないですが、基本的には「明るく」「元気に」「美しく」というのが僕の3原則です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作品情報
映画『家族はつらいよ』

(STORY)

結婚50周年を迎えようとしている平田家の父・周造(橋爪功)と母の富子(吉行和子)。ある夜、いつものように酔っぱらって家に帰った周造は、たまには妻に誕生日のプレゼントを買ってあげようかと欲しいものを聞いてみると、富子は離婚届を差し出してサインをして欲しいという。想像もしていなかった妻の願いに周造は冗談だと受け流すが、その話を聞いた子供たちは大慌て。この離婚騒動をきっかけに家族会議が開かれるが、それぞれが胸の内で思っていた不満が爆発し、さらなる騒動に発展していく。

 

(DATA)

監督:山田洋次 脚本:山田洋次・平松恵美子

出演:橋爪功、吉行和子、西村雅彦、夏川結衣、中嶋朋子、林家正蔵、妻夫木聡、蒼井優

3月12日(土)より全国ロードショー

(C)2016「家族はつらいよ」製作委員会

 

プロデューサー 

深澤宏(ふかさわ・ひろし)

1959年、東京都生まれ。1982年に松竹株式会社に入社し、テレビのプロデューサーを経て、映画プロデューサーに。山田監督とのコンビは長く、『男はつらいよ』シリーズ(87~95)、『たそがれ清兵衛』(02)、『武士の一分』(06)、『小さいおうち』(14)など多数。そのほか『釣りバカ日誌』シリーズ(88~90、94、00~09)、『超高速!参勤交代』(14)、『愛を積むひと』(15)などを手掛けている。2016年6月18日には黒沢清監督の『クリーピー』公開が控えている。

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